おみその脳みそ

猫や時事ネタや、ネトゲや仕事で使えるコミュニケーション術を扱います。

【文体模写】夏目漱石が飲みすぎて遅刻【吾輩は猫である】

夏目漱石著作権が完全に終了しているため「吾輩は猫である」より、 遅刻の言い訳を文体模写というよりはほとんど改変にて挑戦してみます。

photo by RCB

 吾輩は遅刻をしたのである。罪状はまだ無い。

 どこで遅れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いガード下でギャーギャー騒ぎ立てていたことだけは記憶している。吾輩はここで始めて新橋のサラリーマンというものを見た。 しかもあとで聞くとそれは酔払いという人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。 この酔払いというのは時々酒を捕まえては朝までひっかけるという話である。

しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。 ただ彼に「いよっ、大将。日本一」と持ち上げられた時、何だかフワフワした感じがあったばかりである。 酒いうものを一杯かわして、少し落ちついて厠で鏡を見たのがいわゆる酔っ払いというものの見始めであろう。

 この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一輪郭をもって映されべきはずの顔はぼんやりしてまるで朱顔だ。 その後、酔払いにもだいぶ逢ったがこんなろくで無しには一度も出会した事がない。のみならず顔中があまりに赤々している。そうしてその口の中から時々オエオエと吐瀉を出す。 どうもぬらぬらと歩く姿には実に弱った。これが酔払いの明け方というものである事はようやくこの頃知った。

 この酔払いは足を止めるとガードの脇でしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。 酔払いが動くのか自分だけが動くのか分らないが無暗に眼が廻る。胸が悪くなる。到底助からないと思っていると、どさりと音がして口から火が出た。 それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。

 ふと気が付いて見ると酔払いはいない。たくさんあった金も一文とて見えぬ。肝心の外套さえ姿を隠してしまった。その上今までの所とは違って無暗に明るい。眼を明いていられぬくらいだ。 はてな何でも容子がおかしいと、おろおろと這出して見ると非常に心地が悪い。

 吾輩は酒に懐柔され遅刻していたのである。